WHAT'S CORONA

​新型コロナウイルスのウイルス学

東京慈恵会医科大学

ウイルス学講座 教授 近藤一博

【はじめに】

ヒトに感染するコロナウイルスには、風邪を起こす4種類のコロナウイルス、重症急性呼吸器症候群を起こすSARSウイルス、中東呼吸器症候群を起こすMERSウイルス、そして今回問題となっている新型コロナウイルスがあります。新型コロナウイルスに関するウイルス学的な情報は未だ乏しいですが、SARSウイルスと良く似た性質を持っていると考えられています。ここでは、SARSウイルスや新型コロナウイルスの研究から得られた新型コロナウイルスの性質を紹介し、診断、予防、治療にどのようにつながっているのかを解説していきたいと思います。

 

【新型コロナウイルスの構造と消毒法】

ウイルスの構造は消毒法と密接な関係があります。コロナウイルスは教科書的にはエンベロープを持つウイルス(エンベロープウイルス)に分類されます。しかし、その性状はインフルエンザウイルスやヘルペスウイルスなどの他のエンベロープウイルスとは、かなり異なっています。一般に、エンベロープウイルスは、エンベロープ上にあるタンパク質を使って細胞に侵入します。ウイルスのエンベロープは脂質二重膜からできているので、低濃度のアルコールや界面活性剤(洗剤)で簡単に破壊され、感染性を失います。

  ところが、新型コロナウイルスの場合は、図1に示すスパイク蛋白を使って細胞に侵入します。そして、スパイク蛋白はウイルスの構造に深く突き刺さっているので、エンベロープを破壊しても取り去ることができず、完全には感染性を失いません。腸管内でも感染性を保っているのが、その証拠です。

  このため、新型コロナウイルスの消毒には、スパイク蛋白を変成することができる70%以上のエタノールや次亜塩素酸ナトリウムを使用する必要があります。一般的に使用されている消毒液には

エンベロープの破壊を目的に、低濃度のアルコールと界面活性剤を配合したものもありますが、新型コロナウイルスの場合は感染性を完全に無くすことはできない可能性があります。このため、少なくとも医療現場では、このような消毒剤の使用を避けた方が無難だと思われます。

  ちなみに、消毒薬に抵抗性のあるウイルスに対して、最も有効な手段は洗浄です。皮膚の表面にあるウイルスを石鹸で浮かせて、水やお湯でしっかりとウイルスを洗い流すことが必要です。

 

【遺伝子とPCR検査】

コロナウイルスの遺伝子は、図1にあるようにRNAで出来ています。コロナウイルスの遺伝子RNAは、他のウイルスと比較しても最大級の大きさで、コロナウイルスの素早い変異や適応の原因となっています。

 新型コロナウイルスの検査として、ウイルス遺伝子を増幅するPCR検査が行われています。しかし、このウイルスは遺伝子がRNAで出来ているので、ヘルペスウイルスやアデノウイルスなどの、遺伝子がDNAで出来ているウイルスに比べて遺伝子の抽出に高度の技術が要求され、PCRの前に逆転写と呼ばれる余計な操作を行う必要があります。このことは、新型コロナウイルスの検査がなかなか進まなかったり、粗悪な診断キットが生まれたりする原因となっています。

 

【増殖の仕組みと抗ウイルス薬】

コロナウイルスは遺伝子がRNAから出来ているので、増殖するために、ウイルス自身が持っている、RNAからRNAを作る酵素(RNA依存性RNAポリメラーゼ)が働くことが必要です。最近話題になっているアビガンやレムデシビルは、このRNAポリメラーゼの働きを阻害することで、ウイルスの増殖を抑制する薬剤です。

 これらの薬剤は、感染初期に使用する方が効果的ですが、副作用も問題視されています。RNA依存性RNAポリメラーゼは、ヒトの体には存在しない酵素なので、この酵素を阻害すること自体はヒトの体に害を与えることはありません。このため、副作用のないRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害薬の開発が理論上は可能です。より良い阻害剤の開発が待たれるところです。

 

【感染経路と病原性】

新型コロナウイルスの感染経路は、喀痰や飛沫によって体外に出てきたウイルスによると言われていますが、この2つは、かなり性質が異なります。喀痰は、肺で増殖したウイルスを運び、体外に出た後の飛行距離が短いという性質があります。これに対して、飛沫やエアロゾルは、鼻や喉といった上気道で増殖したウイルスを運び、飛行距離や長いという特色があります。

  2009年にパンデミックを起こした新型インフルエンザは、もともとブタで流行していたインフルエンザウイルスがヒト社会に入りこんで流行したものです。流行当初は、ヒトの肺で増殖して致死率も高かったですが、次第に上気道で増殖するようになり、病原性も低くなりました。

  この現象は、ウイルスの適応や進化によるものと考えられます。もともとウイルスというものは、ヒトを殺すことを目的としていません。ウイルスも生物ですので、子孫をいかに多く増やすかが生存戦略の目標です。2009年の新型インフルエンザの場合も、もともとブタに適応していたウイルスが、急にヒト社会にやって来て、訳も判らず肺で増えたり強い免疫反応(サイトカインストーム)を起こしたりしてヒトを殺していました。しかし、ヒト社会に適応して生存するためには、宿主であるヒトを殺すことは不利な性質です。そこで、ウイルスは急速に適応・進化を起こし、上気道で増えて、ヒトを殺さないウイルスに変わって行きました。肺で増殖するウイルスが拡散する手段である喀痰の飛行距離が短く、上気道で増殖するウイルスを広げる飛沫やエアロゾルの飛行距離が長いという性質も、このような進化を進めるのに役立ちました。

  新型コロナウイルスは、人為的かどうかは別としても、コウモリなどのヒト以外の動物のウイルスが新たにヒトの社会の広がろうとしているウイルスであることは間違いないと思います。このため、現在、新型コロナウイルスにおいても、2009年の新型インフルエンザと同じ様なことが生じているように見受けられます。すなわち、肺炎を起こす致死率の高いウイルスから、上気道で増殖する病原性の低いウイルス(すなわち普通の風邪のコロナウイルス)への進化です。この際、濃厚接触を避けることや、マスクの使用は、肺で増殖して喀痰で媒介されるウイルスの広がりを抑え、上気道で増殖するウイルスへの進化を加速する働きがあると考えられます。

 

【ワクチンについて】

現在、新型コロナウイルスに対するワクチンの開発が進められていますが、そのほとんどは、注射によって体内の新型コロナウイルスに対する中和抗体IgGを産生させるもののようです。

 注射による中和抗体IgGの産生が感染防止には役立たないことは、インフルエンザのワクチンで良く知られている事実です。ただ、新型コロナウイルスの場合は、血行性に全身に広がることで重篤な症状を生じると考えられています。血行性のウイルスの広がりには、中和抗体IgGは有効ですので、新型コロナウイルスのワクチンは、感染は予防しないが重症化は防ぐといったものになりそうです。

 感染を予防する方法としては、現時点では、集団免疫しか方法がないように思われます。一端、完全な隔離を行っても、免疫を獲得していないと、第2波、第3波の流行が防げないからです。しかし、スウェーデンで行われているような野放しの感染拡大による集団免疫獲得作戦では、感染による死者が増えてしまいます。これに対し、日本で行われているマスクと濃厚接触防止を絡めた集団免疫獲得戦術(のように見えるもの)は、スウェーデンのものよりも理にかなったものに思えます。

 もう一つ重要なポイントとして、ウイルスは一般的に、「感染したウイルスの量と疾患の発症や重症度が相関する」という性質があることが挙げられます。人と人との距離をとることは、感染時のウイルス量を減らす効果があります。同じ感染するなら、距離を開けて少ないウイルスに感染し、あまり強い症状を出さずに、免疫だけを獲得したいものです。この点でも、現在日本で行われている緩い外出制限は、理にかなっていると思います。

 

【まとめ】

ウイルス学の世界では、自分の専門以外のウイルスの関しては口出ししてはいけないという不文律があります。現役のコロナウイルス学者は、日本にはほとんどいないので、マスコミなどでウイルス学者が新型コロナウイルスの解説をすることは、まず無いと思います。ここでは、TCOPセンターの開設に合わせて、不文律を破って、ウイルス学者の目からみた新型コロナウイルスの解説を試みてみました。新型コロナウイルスの性質に関する情報が未だ不足しているため、今後の学問的進展によっては上記の説明内容は変更を余儀なくされる可能性があります。この点を御了承いただけますと有り難く存じます。

INQUIRY

質問等

新型コロナウイルスに関する質問等は下記フォームでお寄せ下さい。(まとめてFAQとして掲載します)

 

FAQ

よくある質問とその回答(※新しいFAQは下に加わります)

Q: 教授というお立場なら、この機を利用してでも結構ですので「ウイルス学の世界では、自分の専門以外のウイルスの関しては口出ししてはいけないという不文律」などという非科学的な悪弊を断ち切っていただきたい。これを表に出された、次世代への責任ある、勇気あるご行動に敬意を表します。

 

A: 誤解されている方も多いようなので、この不文律について説明させて下さい。この言葉は、決してネガティブな意味ではありません。

 ウイルスには様々な種類があり、その時々により、流行するウイルスも変わります。ウイルス研究の流行も、ウイルスの流行に左右される傾向があり、ある時は○○ウイルス、またある時は△△ウイルスと、研究が盛んなウイルスも変わります。この流行は、数年毎、短い場合は2~3年で変わります。

 2~3年ごとに研究テーマを変えていては、良い研究ができるはずはありません。FAQの別の項目でお話させていただいた、感染を防ぐことのできる経鼻インフルエンザワクチンは、国立感染研の倉田毅先生が、多くの協力者やお弟子さんと30年近い歳月を掛けて実用化にこぎ着けられたものです。本当に役に立つ研究は、それくらい時間がかかるのは普通のことです。

 そこで、例の不文律ですが、「ウイルス学者が全体で流行を追っていては、何もなし遂げられないので、自分の専門に集中して、しっかりとした研究をしなさい」というのがこの格言の本意です。「もし、○○ウイルスによる疾患が問題になった場合は、そのウイルスをしっかりと研究している人の言うことを尊重しなさい」、「ちゃんと研究していない者は、横からごちゃごちゃと邪魔をしてはいけません」という部分が、御紹介した不文律の部分です。ウイルス研究とは、こうあるべきだという格言で、決してネガティブな意味ではありません。

 実は、私の専門は「ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)の潜伏感染と疲労・うつ病との関係」です。このテーマで30年以上研究をさせていただいています。慈恵医大のPCRセンター設立に合わせて、新型コロナウイルスの解説をさせていただいていますが、専門外なのに申し訳ないなと思って書いています。

Q: ワクチンの項にあります「注射による中和抗体IgGの産生が感染防止には役立たないことは、インフルエンザのワクチンで良く知られている事実です。」はどういうことでしょうか? 「重症化を防ぐ」ことは理解できるのですが、同様な機序で感染防止ができるのではないかと考えていましたが違うのでしょうか?

 

A: 現行のインフルエンザワクチンは、死滅させたウイルスのタンパク質を皮下注射するものです。これによって産生される抗ウイルス抗体は、IgGクラスの中和抗体です。

中和抗体は、ウイルスが細胞に侵入するのを防ぐ作用があります。しかし、IgGクラスの抗体は粘膜表面に分泌されないので、インフルエンザが最初に感染する気道の粘膜で働くことが出来ません。このため、インフルエンザウイルスは、やすやすと気道の細胞に感染し、細胞から細胞へと感染を広げてしまうのです。感染そのものを防ぐには、粘膜に分泌されるIgAクラスの中和抗体を産生させることが必要で、鼻の粘膜にワクチンを接種する必要があります。この様なワクチンは開発が難しく、インフルエンザウイルスでも、最近ようやく実用化の一歩手前まで来たという状態です。新型コロナウイルスワクチンのニュース報道では、IgAを産生させる経鼻ワクチンの話題は見たことがないように思います。

 

Q: 日本での感染者数が欧米よりけた違いに少ないことの理由の一つとして、日本型BCG接種を実施している国は、日本を含めて感染拡大が緩いことから、これが感染予防として働いている ということが早くから言われています。 ウイルス学の見地から、この「うわさ」は正しいと言えるでしょうか?

 

A: 公式には、日本ワクチン学会が、この噂に対して、否定も肯定もしないという見解を発表しています。

 これだけでは寂しいので、ナイショで私の仮説を紹介します。日本型BCGを接種している国は、結核の流行地であるという特徴があります。結核菌は感染しても95%程はすぐに症状をあらわさず、肺に隠れています。日本では、高齢者の数十%で肺に結核菌が隠れているという報告もあります。

 通常は、隠れている結核菌が暴れ出さないように、肺の免疫細胞と結核菌が戦っています。結核菌に対しては、自然免疫と呼ばれる免疫機構が強く活性化されることが知られています。簡単にいうと、結核を体に持っている人は、肺の自然免疫が鍛えられているというわけです。自然免疫は、未知の病原体が体に入って来た時に最初に戦う免疫機構です。新型コロナウイルスを迎え打つのもこの機構です。結核菌で鍛えられた自然免疫機構は、新型コロナウイルスにも強いのかも知れません。以上、あくまでもナイショの話です。

 

Q: 新型コロナウイルスには70%以上の濃度のエタノールが有効とのことですが、肌が弱くてアルコールが使えない人はどうしたら良いでしょうか。 また、いろいろな消毒液が発売されていますが、新型コロナウイルスに効くかどうかは、どうすれば判るのでしょうか?

 

A: 「○○が新型コロナウイルスの消毒に効くことが発表された」というニュースをしばしば耳にしますが、現実的にそんな高濃度でそんなに長時間使えるのか? と首をひねってしまう場合も少なくありません。 ウイルスがちゃんと消毒されているかどうかは、細胞に感染させて、ウイルスが増えるかどうかを調べるのが普通です。しかし、消毒液の毒性が強すぎる場合は、細胞が死んでしまうので、調べて効果を確認することができません。○○が効くと宣伝しているものの中には、「そんな条件では細胞が死んでしまうだろ」とか、「そのウイルスが感染できる細胞は見つかっていないだろ」とか、いろいろと突っ込みを入れたくなるものも少なくありません。やはり、国立感染研などの公的機関がきちんと調べた結果でないと、信用したくないというのが本音です。

 では、今どうしたら良いのか? ですが、洗うことが一番だと思います。ノロウイルスのような消毒し難いウイルスに対しても、手洗いは他のウイルスと同様に有効であることが分かっています。アルコールに弱い人でも、手洗いには問題はないはずです。解説にも書いていますが、手洗いの際の石鹸は、消毒効果を期待しているわけではないので、濃い濃度のものを使う必要はありません。「外から帰ったら、直ぐにシャワーを浴びて、着ているものはできるだけ洗濯する」という話を聞いたことがありますが、とても理にかなっていると思います。

 

Q: 次亜塩素酸水は新型コロナウイルスの消毒に有効でしょうか。現在自治体が配布しています。

 

A: 次亜塩素酸水は、次亜塩素酸ナトリウムと同様に塩素系の消毒薬ですので、新型コロナウイルスのタンパク質を変成させて不活性化(感染性を失わせる)効果が期待できると思います。ただし、「○○が新型コロナウイルスの消毒に有効」と言う場合は、どんな濃度でどのくらいの時間作用させるかが重要なポイントとなります。自治体の配布してくれているものの濃度がどのくらいかは判りませんが、どんな使い方をすれば新型コロナウイルスに有用なのかを、本当は教えてほしいところです。解説にも書いていますが、新型コロナウイルスは、エンベロープウイルスに分類されるにも関わらず、一般的なエンベロープウイルスほど消毒に弱くありませんので、要注意です。

 

Q: 新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスに同時に感染するとどうなるのでしょうか?またどちらか一方の検査で陽性が出た場合、加えてもう一方の検査をする事はあまりないように感じますがどう思われますか?

 

A: ウイルスは昔から、一つのウイルスに感染していると次のウイルスが感染し難いという性質があることが知られています。これは、干渉(インターフェアレンス)という現象で、インターフェロンの発見に繋がりました。新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスも、この様な現象を起こすと考えられますので、同時感染ということは、あまり心配しなくても良いのではないかと思います。

 

Q: 僕は普段の風邪の時から、痰や唾を極力飲まず外へ出すように心がけ、ウイルスや細菌を減らす努力をしています。新型コロナウイルスでも同様に効果があると思っていますがいかがでしょうか?

 

A:これは難しい質問です。例えばインフルエンザウイルスのように、エンベロープを破壊すれば感染性を失うウイルスであれば、外から入ってきたウイルスは、飲み込むことで胃酸や胆汁(強力な界面活性剤)でエンベロープが破壊されて不活化されるので、「唾液は飲み込んで下さい」とお答えします。しかし、新型コロナウイルスは腸内でも感染性を保っていると報告されていますので、唾液を飲み込むことで感染を呼び込む危険性は、否定できません。

  とはいっても、もし新型コロナウイルスを含んだエアロゾルを吸い込んだ場合、直ぐに気道の粘膜に吸着されてしまうので、痰や唾液を外へ出すことで減少させられるウイルス量はそれほど多くありません。また、逆に、あなたが感染者の場合は、周りにウイルスをまき散らすことになってしまいます。

  というわけで、総合的な判断として、自分だけのことを考えると唾液は吐き出した方が良いかもしれないが、効果が少なく、周りの人に感染を広げるかも知れないので、我慢して飲み込むか、ティッシュなどにとって家に持ち帰るということで如何でしょう?

 

Q: 複数の感染者が同じ空間で過ごしていると、ウイルスをお互いにうつしあって症状が悪化する可能性が高まるのではないかと思っていますが、いかがでしょうか?隔離入院にしろ、家庭内隔離にしろ、感染者が集まってしまうことが心配です。

 

A: 細胞にウイルスが入る方法には、細胞の表面から入る場合と、となりあった細胞どうしで広がる場合(cell to cell infection)があります。となりあった細胞は、細胞どうしの距離が近く、ウイルスによって細胞膜が融合しやすいので、表面からの方法に比べて、ウイルスはものすごく素早く細胞に入ることができます。感染者の場合は、既に体の中にウイルスがいますので、このcell to cell infectionによってウイルスが素早く広がり、外から入ってくる空中を漂っているウイルスの作用は無視できると考えられます。この様な理由で、複数の感染者が同じ空間で過ごすことは、特に問題にならないと思われます。

 

Q: いったん感染し、免疫ができても、効果はウイルスによってまちまちだと聞きます。新型コロナも再感染のケースが報じられています。 その場合、再感染では重症化しないということでしょうか?でなければ集団免疫獲得のメリットがどこにあるかわかりません。

 

A: 免疫には、外敵が入って来たときに非特異的に働く自然免疫と、外的の種類に特異的に働く獲得免疫があります。獲得免疫は強力な免疫で、ウイルスを完全に押さえ込むことができるのですが、獲得するには通常2~4週間かかりますので、最初の新型コロナウイルスの感染には間に合いません。しかし、同じウイルスの2度目以降の感染では、この獲得免疫は1週間程度で動員が可能で、ウイルス感染の発症前に強力な獲得免疫の迎撃準備が整います。これが、同じウイルスには2度と感染しないという終生免疫と呼ばれる現象のもとになるメカニズムです。

 ただし、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスのように、気道の表面で増えるウイルスは、気道表面が免疫の届き難い場所であるのに加えて、感染後数日で何らかの症状が出ることが多いので、2度目以降の感染でも、この獲得免疫の動員が間に合わない場合があります。

 とは言うものの、気道表面から全身へのウイルスの感染の広がりに対しては、獲得免疫が十分に作用しますので、本格的な症状の出現や重症化は防ぐことができます。また、ウイルスが大量に増殖して体外に拡散し、周りの人に感染を広げるということも防ぐことができます。この様なメカニズムによって、集団免疫の獲得は多いに意義のあることだと考えられます。

(以下、5月9日掲載分)

Q: ドアノブや電車のつり革を介して感染するのですか?ウイルスに触れた瞬間に感染するのですか?

 

A: 通常、ウイルスは皮膚の角質を通して感染することはなく、粘膜部分から侵入します。手からの感染は、手を口に入れたり、目をこすったり、手が粘膜に触れた時に生じます。マスクは、手が口に入るのを防ぐ効果も大きいと考えられています(人は、知らず知らずのうちに、相当な頻度で、手で口を触っているそうです)。新型コロナウイルスは、呼吸器に疾患を起こすウイルスなので、通常は目を守る必要はないと思いますが、大量のウイルスを浴びる可能性のある医療現場ではゴーグルやフェイスガードが必要となります。

 

Q: 気道の表面でウイルスが取り込まれるのだとしたら、うがいは、感染予防に有効でしょうか?

 

A: 上の質問とも関係しますが、新型コロナウイルスは、口腔、鼻腔、気道の粘膜から侵入します。通常、粘膜に吸着したウイルスは、10分~20分程度で、細胞の中に取り込まれます。一端、取り込まれたら、うがいで洗い流すことはできません。これが、ただ表面に付着しているだけの手の皮膚の場合と異なる点です。このため、うがいによるウイルス除去効果は、手洗いほどには期待できないと思います。

 

Q: どうして石鹸や洗剤での手洗いが推奨されているのですか? 水洗いで充分ではないでしょうか?

 

A: ウイルスは一般的に、脂肪、脂質に強い親和性があります。これは、ウイルスが細胞に侵入する際に、脂質二重膜である細胞膜と相互作用をする必要があるからです。コロナウイルスは、細胞膜に陥没することで、細胞に侵入します。

このような理由で、手の表面にいるウイルスは、手の表面の油分に付着して存在している確率が高いと考えられます。手洗いで、新型コロナウイルスを除去するためには、この油分ごと浮かせて、水かお湯で流してしまうことが重要です。

この時、洗剤の消毒力は全く期待していませんので、低い濃度の石鹸や洗剤で油を包みこめば十分です。石鹸や洗剤が、油分を十分に吸収すると、良く泡立つようになります。このため、良く泡立つことを目安に手洗いをすると良いと思います。長時間、高濃度の洗剤に触れると皮膚が損傷を受けて、ウイルスに対する抵抗力が減少しますので、長時間の手洗いはかえって良くないと思います。

 

Q: 感染者が、自身の排出したウイルスを、再度、マスク内や自己隔離のための室内などで吸い込むことによって、体内のウイルス量を増やすことになるのでしょうか?そして、自身が重症化することになるのでしょうか? 家庭内での対応を、日々考えるうえで不安に思っています。

 

A: これと似た質問に以前もお答えしましたが、空気中のウイルスが細胞に入るスピードよりも、体内で隣り合った細胞に広がるスピードの方が圧倒的に速いです。このため、感染者の場合は、自分のウイルスを再び吸い込むことや、となりの患者からうつされるウイルスによるウイルスの増加は、完全に無視することができます。感染者の皆さんは、安心して、マスクをするようにして下さい。

 

Q: ウイルスの生存戦略として 普通の風邪に進化するという旨、期待しています。 ここで1点疑問が生じたのですが 死亡率が高いままのウイルス すなわち、エボラ出血熱や狂犬病などのウイルスはなぜ進化しないのでしょうか? 新型コロナウイルスがこのような進化をしないウイルスという可能性はあるのでしょうか? 教えていただければ幸いです。

 

A: 新型コロナウイルスの病原性が低くなるという理論の根拠は、ウイルスが、ヒトの社会で生存して自分の子孫を増やそうとすると、ヒトを殺したり、ヒトに強い免疫反応を生じさせたりしては、不利だからというものでした。

 御指摘のウイルスは、ヒトの社会で生存しているウイルスではありません。ウイルスは、自分だけの力では増殖できないので、他の生物の体内に寄生して増殖します。この「他の生物」のことを宿主(しゅくしゅ)というのですが、あるウイルスにとって古くからつきあいのある大切な宿主のことを固有宿主と言います。エボラウイルスの固有宿主はまだハッキリとは分かっていませんが、コウモリが有力候補です。少なくともヒトではありません。狂犬病は、コウモリやイヌ科の生物です。ちなみに、進化論的にはコウモリとイヌは親戚だそうです。

 ウイルスにとっては、固有宿主以外の生物では増殖しにくいのが普通なので、固有宿主以外の生物の体には入りたくありません。ある場合には、全く感染できないという場合もありますが、大暴れして重篤な病気を起こす場合もあります。御質問のウイルスは、固有宿主以外のヒトに感染してしまって、腹を立てて大暴れをするウイルスです。ヒトが死のうが生きようが、コウモリさえいてくれれば、自分たちが滅びることはありません。でも、世界中で大繁栄ということも出来なさそうです。

 コロナウイルスの場合は、もう少し欲が深そうです。風邪のコロナウイルスも、もとは何かヒト以外の動物を固有宿主にしていたかも知れませんが、彼らはヒトも宿主にしようと進化したと考えられます。解説でもお話したように、新型コロナウイルスにとって最良の結末は、新たに宿主となったヒトを元気で生かしたままで、大量に増殖して広範囲に広がることです。他のコロナウイルスを見ると、新型コロナウイルスもこのような自分の利益を良く理解した方向に進化して行くと考えられます。

 新型コロナウイルスは、大きな一本鎖RNAという、非常に変異しやすい遺伝子を持つウイルスです。実際に、最近、新型コロナウイルスの遺伝子変異が盛んに報告されています。ただ、進化の方向を決めるのは淘汰圧です。「ヒトを元気で生かしたままで、大量に増殖する」というのは、新型コロナウイルスにとってもとても有利なことなので、これに適応したウイルスが増殖し、これに適応しないウイルスは、淘汰されていなくなると考えられます。解説でも説明しましたが、マスクの使用は、このような淘汰を強く進めるのに有効だと考えられます。

 

(以下、5月15日掲載分)

Q: 新型コロナウイルスのワクチンは効くのでしょうか? デングウイルスのワクチンでは、ワクチン接種によって逆に症状が重篤化したという話も聞くので不安です。

 

A: 開発中の新型コロナウイルスワクチンに関する御質問を多数いただいています。まだ、どのようなワクチンが開発されているのか情報が少ないですが、報道されている情報をもとに、新型コロナウイルスワクチンの効果や危険性について考察してみたいと思います。

 

【開発されているワクチンの種類と効果】

おそらく開発されているのは、死滅させたウイルスのタンパク質(または、人工合成したウイルスタンパク質)を皮下や筋肉に注射する、「不活化ワクチン」と呼ばれるものだと考えられます。このタイプのワクチンの開発が、一番簡単だからです。現行のインフルエンザウイルスワクチン、B型肝炎ワクチン、日本脳炎ワクチンなどがこのタイプのワクチンです。

  以前、解説やFAQでも書きましたが、注射するタイプの不活化ワクチンは、血液中のIgGクラスの抗体がウイルスを中和する(感染を阻害する)ことで働きます。この中和抗体は、粘膜に分泌されるIgAクラスの抗体とは異なり、感染そのものを防御する力はありませんが、血液を介した感染の広がりを阻止することで、重症化を防ぐ効果があると考えられています。

 

【中和抗体によるウイルス抑制作用】

 ウイルスは全ての種類の細胞で増えられる訳ではありません。感染できない細胞に入っても死ぬだけなので、ウイルスは感染する時に、自分が増えることのできる細胞を探して感染します。この現象は「鍵と鍵穴の一致」にもたとえられます。鍵と鍵穴が一致すると、ウイルスの細胞への侵入が始まります。中和抗体は、このピッタリとはまる「鍵と鍵穴の一致」を邪魔する抗体です。不活化ワクチンの効果は主として、中和抗体のこの働きによるものです。

  ここまで聞くと、少し詳しい人は、補体が効くのでは?とお思いかも知れません。しかし、ウイルス感染細胞に対する補体の効果はあまり大きくありません。

  抗体のもう一つの作用機序として、抗体依存性細胞傷害(ADCC)というのがあります。ところが、これが曲者なのです。

 

【抗体依存性細胞傷害(ADCC)と抗体依存性感染増強現象(ADE)】

 抗体には、自分が結合した外敵と免疫細胞であるマクロファージを近づけるという働きもあります。このような抗体の働きでウイルス感染細胞を傷害し、ウイルスが増えられないようにする現象が、抗体依存性細胞傷害(ADCC)と呼ばれる免疫機構によるウイルス感染阻害のあらましです。通常のウイルスに対しては、ADCCはウイルス感染を抑制する働きがあります。

  しかし、この時、攻撃したウイルスがマクロファージに感染して増殖する性質があると話は逆転します。攻撃したはずのマクロファージがウイルスに感染して、ウイルスの運び屋になってしまうのです。感染したマクロファージは、体の隅々までウイルスを運び、感染を大幅に拡大させます。また、感染したマクロファージは、ウイルスに反応して炎症性サイトカインを産生し、血管を破壊することで、出血を誘発することもあります。このような現象を、抗体依存性感染増強現象(ADE)と呼びます。ADEを起こすウイルスの代表が、エボラウイルスやデングウイルスです。いずれも、出血熱を起こすウイルスで、デングウイルスの場合は、ADEを起こした時のみ出血熱を引き起こすと考えられています。

  新型コロナウイルスは、このADEを起こすウイルスではないかという疑いをかけられています。新型コロナウイルスがマクロファージに感染するという報告や、サイトカインストームや血管障害を起こすという報告が、その根拠になっています。もし、新型コロナウイルスがADEを起こすウイルスであった場合、不活化ワクチンによって抗体を持ってしまうと、ウイルスに感染した場合にかえって症状が重くなるのではないかと心配される訳です。

 

【ADEを起こす条件】

 ADEを起こす条件は、ウイルスがマクロファージに感染するということだけではありません。きちんとウイルスと細胞の「鍵と鍵穴」の結合を防ぐことのできる中和抗体が産生されずに、ウイルスの鍵以外の部分に結合してウイルスとマクロファージを近づける働きだけをする抗体ばかりが産生されてしまうことです。このような状態になると、抗体のウイルス抑制作用が期待できず、ADEによる感染増強作用だけが表に出てきます。

  このような抗体が産生される要因になるのは、ウイルスの鍵の変化です。ウイルスは、中和抗体によって死滅するのを防ぐために、中和抗体から逃れるように進化します。とはいっても、細胞に侵入できないのでは話にならないので、「鍵と鍵穴の一致」という性質は残したままで、中和抗体が結合できないように、鍵の形を変えます。ウイルスに鍵の形を変えられては、感染防止に有効な中和抗体は産生できません。

 その一方で、ウイルスの鍵以外の部分に結合する抗体は産生されるので、通常のウイルスでは、抗体依存性細胞傷害(ADCC)によってウイルス感染は阻害されます。しかし、ADEを起こすウイルスの場合は、逆に感染が増大してしまうのです。

 ADEを起こすウイルスの代表であるデングウイルスの場合は、鍵の形の異なるウイルスが4種類存在し、1型~4型という名前が付けられています。このウイルスの場合、たとえ1型に対する完璧な中和抗体が産生されていても、2型のウイルスに感染すると、中和抗体が効かず、鍵以外の部分に対する抗体がマクロファージを引き寄せることで、ADEが発生してしまいます。

 新型コロナウイルスでは、鍵の部分はスパイク蛋白にあります。鍵の部分の変化は、ワクチンによる中和抗体の産生やADEの発生によって重大な問題です。もし、不活化ワクチンで免疫して中和抗体を産生できても、鍵の部分が変化したウイルスが感染したら、中和抗体は機能しませんし、ADEによってかえって症状が重篤化する可能性があるからです。「スパイク蛋白の変異したウイルスが発見された」というニュースが大きく報道されるのは、このような理由によるものです。

ちなみに、インフルエンザウイルスは、毎年、鍵の部分を少しずつ変化させています。そこで、この変化を予測して、不活化ワクチン産生に利用するウイルスの種も、毎年、鍵の部分が少しずつ違うものを使用しています。今年のインフルエンザワクチンは当たりだとかはずれだとかいうのは、この予測の当たりはずれのことを言っています。

 

【まとめ】

  以上のことから、新型コロナウイルスに有効な不活化ワクチンを開発するためには、

  1. 新型コロナウイルスがADEを生じるという性質を持たない。

  2. 接種を受けた人が、ADEを起こさせないぐらいの大量の中和抗体を産生できるワクチンを開発する。

  3. 鍵の部分の変化にも対応できるように、ウイルスの変異に対応してワクチンも変化させられる。

といったことを考慮する必要があります。

 ただ、今回解説させていただいた事項は、ウイルス学の世界では非常に有名な常識ですので、ワクチンを開発しておられる方々は皆さんすでに御存じです。慈恵医大では、ウイルス学の試験のヤマで、再試験の時によく出題しています。開発者の皆さんが、これらの事項を乗り越える良いワクチンを開発して下さることを祈念いたします。

(以下、5月21日掲載分)

Q: UVライト除菌は、新型コロナウイルスに対して有効でしょうか。 また、数千円から1万円程度で購入できる物で、効果が期待できるでしょうか? よろしくお願いいたします。

 

A: 結論から申しますと、御家庭での使用はあまりお勧めしません。UV(紫外線)ライトは、私どもの研究室でも使用していますが、影になる部分では消毒効果が有りませんので、全面がピカピカのアルミ張りの箱のなかで、UVを反射させながら使います(強い紫外線でも、消毒には1時間以上かかります)。また、ウイルスを消毒できるような種類の紫外線は、皮膚ガンや視力障害の原因になるなど、人に害がありますし、家具などのプラスチック製品をぼろぼろにしてしまいます。もちろん、機種も波長の短い強力な紫外線を出すものを選ぶ必要もありますが、そもそも使うのが難しいので、UVライトによる消毒は実用的ではないと思います。

 

Q: 新型コロナウイルスの消毒には、70%エタノールや次亜塩素酸ナトリウムが効果的とのことですが、もっと薄い濃度のエタノールでも効果があるとか、他の消毒剤も有効という話を良く耳にします。どのように考えれば良いでしょうか?

 

A: 消毒剤に関しては、解説や他のFAQでもお答えしているのですが、まだ質問が多く寄せられますので、回答を追加させていただきます。

 70%エタノールや次亜塩素酸ナトリウムが推薦されるのは、実用上での確実性を見込んでいるからです。

 例えば、エタノールは水よりも蒸発しやすいので、手に吹きかけた場合や、おしぼりに染み込ませた場合は、エタノールが先に蒸発してしまって濃度が低下します。このため、消毒に必要なギリギリの濃度のエタノールでは、実際の場面で十分な消毒効果を発揮しない可能性があります。また、実際の消毒の場面での、吹きかけや拭き取りでは、消毒液と手や机などが接している時間は、あまり長くはありません。このため、短時間で効果を発揮する濃度ということも、70%という数字には盛り込まれていると考えられます。

 次亜塩素酸ナトリウムも良くできています。次亜塩素酸ナトリウムも次亜塩素酸水も、有効成分は塩素です。しかし、次亜塩素酸水ではフタを開けておくと、塩素が直ぐに抜けてしまいます。次亜塩素酸ナトリウムでは、溶液をアルカリ性にすることで、塩素が抜け難くなっています。漬けおきの消毒用に次亜塩素酸ナトリウムが推奨されるのは、この様な理由が大きいと考えられます。

 基本的に、消毒剤に対する耐性ウイルスは出現しませんので、同じ消毒液を使い続けても、効かなくなる心配は有りません。濃いエタノールが手に入らないなど、いろいろな問題もあるかと思いますが、個人的には昔ながらの実績のある方法で行きたいなと思っています。

Q: 新型コロナウイルスが生存出来なくなる温度はないのでしょうか?例えば摂氏何度以下だと不活性化するということがあれば、スーパーで買ってきた物も全部洗わなくても、冷蔵庫の中に入れといたから安心だなどとことにはならないでしょうか?

 

A: 「ウイルスは、凍らせて殺すことが出来ますか?」という質問は、以前から良く聞かれる質問です。我々は普段、ウイルスを生かせたまま冷凍保存しているので、「どうしてそんな面白いことを思いつくの?」と思うのですが、おそらく、「鮭についている寄生虫を凍らせて殺す」という調理法からの類推なのでしょう。しかし、ウイルス、細菌、寄生虫、の中で、冷凍や冷蔵にもっとも強いのはウイルスです。冷凍によって死ぬのは、細胞が凍結によって破壊されるからです。ウイルスは細胞を持たないので、凍らせても死にません。また、ウイルスは他の生物に寄生するまでは活動しませんので、低温でタンパク質や核酸を安定化すると、より長期間生存できます。

 逆に、高温にすると、タンパク質や核酸が不安定になりますので、ウイルスは死にます。新型コロナウイルスは、56~60℃で30分間加熱すると死滅すると報告されていますので、それほど熱には強くないウイルスのようです。とはいえ、「室温に放置しておいたらウイルスが死んだ」みたいな話は、消毒法としては実用的ではありませんので、御注意いただいた方が良いと思います。

© 2020 東京慈恵会医科大学 Team COVID-19 PCRセンター Wix.comを使って作成されました

This site was designed with the
.com
website builder. Create your website today.
Start Now